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満ちる
2004年 秋
今日の帰り。
薄暗い路上。
落ち葉が模様を描いた上を通る。
ロバート・ハインラインが書いた「異星の客」が何故か頭に浮かんだ。
中学の頃に呼んだSF小説だ。
手に取った理由は恐ろしく分厚かったから。
日本で出ている「異星の客」は、それでもショートヴァージョンらしい。
完全版が読めなかったことが、ちょっと悔しい。
火星人に育てられた、マーク。
彼は、純粋無垢な青年だ。
火星で受けた宗教学によって、純粋培養されてしまった地球人。
帰ってきた地球に順応できず、最後には殺されてしまう。
彼は、言う。
「死ぬことは、満ちることだ。
持っている時間に、
満たされることだ」
落ち葉は、その持っている時間が満ちたから散ったのだろうか。
なら、死ぬことは怖いことではない。
満ちることだ。
私の中に時間が満ちて、
零れ落ちて 零れ落ちて
そして、肉体が滅ぶ。
「異星の客」は、今では実際の宗教となっている。
在り様は正しいとは言い難いが。
実際、ハインラインが聞いたら、おおいに顔をしかめて
迷惑そうな顔をしたことだろう。
満ちて 満ちて 満ちて
月が痩せるように肉体が滅び
水となり 空気となり
そして 還元へと進化する
.
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