駅に下りて　改札を出る

 

夕暮れだ

 

（こんなに要らないだろう）

と　思うほどの人混み

私もその一部だ

 

 

ふと　サックスの音に呼ばれる

 

動きを止め　いつもと逆方向に進む

 

その一帯は

絶えず　素人演奏家たちが音を流す

 

でも　なかなか呼ばれることはない

 

 

サックスは　年配の人が吹いていた

 

なんと　豊かな音色だろう

 

曲名も分からぬまま　ただ聞いていた

 

何人も　何人も　立ち止まり

そして名残惜しそうに歩いていく

 

同じ思いを共有していることを感じる

 

若い人も　思わず立ち止まり

振り向いていく

 

 

私も名残惜しいまま戻り始めた

 

 

秋の夕暮れは　空気が冷たい

 

どうか　彼が

風邪を引きませんように

 

また　あの音を

街に響かせてくれますように

 

 

ささやかな　お願いです

​

​.